ホーム > 危機管理計画
危機管理計画
あなたは、釣りをするに於いて、常に「リスク管理」を念頭に置いて行動しているか?
ここで表現する「リスク管理」とは、言い換えれば自身の「安全管理」を指す。
毎年、当方の元に「クマ対策」や「クマ遭遇時の防御・撃退法」等の質問が寄せられる事からも、一般的に入山に際しての定番恐怖が「クマ」の存在であろうかと思われるが、山で遭遇する危険は、 クマだけでは無い事を再度ご認識頂いた上で、今後危機管理対策の参考として頂ければと思う。
ちなみに、多くの方々が気にするクマについてだが、我が山梨県下に於けるツキノワグマの推定生息数は、平成13年の調査で約400頭。この数字は山梨の総面積を4200km2 で計算すると大凡10km2に1頭の割合で生息している事になる。
豊かな自然の象徴で有るツキノワグマが、広大な県内にたった400頭しか生息していないと受け取るか、 多いと感じるかの論議は別問題として、はっきり申し上げられる事は、山梨には現在これだけの頭数が生息している事実。そして、毎年被害報告が地元新聞を騒がす事実。
ただし、これらの被害は、クマの頭数が多いから発生しているのではなく、野生の素顔に接するルールを知らないが為に起こる、いわば、おおかたは防げた事件なのではないだろうか。
私見ではあるが、入山に際してつきまとう危険は、上述した通り、むしろクマよりも、ハチ・野犬による被害や、 単独事故による怪我の方がどれだけ大きなウエイトを占めるか判らない。 自然界の頂点を極めるクマはもともと頭数が少なく、出会う確率は低い訳であるから、後者の方がよぽど深刻で尚且つ遭遇する確率は飛躍的に高い。
今更ながら釣りという行為自体、場所を問わず常に危険と隣り合わせである事は敢えて殊更強調して申し上げるべき問題でも無い様に思うが、このページではワタシが肌で感じた体験談を元に、 危険と称される彼らとどう共存すべきか、どう自己の安全対策を心得るかの意義を記してみたいと思う。
クマ
シーズン中は、毎週の様に南アの深山幽谷に出掛けている訳であるから、意外だとの声が多いのだが、幸か不幸かワタシは 未だかつてフィールドでクマとご対面した経験も無ければ目撃した経験も無い。
我が日本が誇る大峡谷・南アルプス(前衛山系は除く)は、切り立った険しい山々に行く手を阻まれ、遡行を難儀するフィールドが多数を占める。そんな環境下では、野山で自由に生きるクマとて 生活し易い訳が無い。
南アをメインフィールドにするワタシにとって、クマとの接触が現在まで皆無なのは、裏にこんな理由があるのかも知れない。
唯一、早春の雨畑支流・奥沢谷は、中腹に位置する小さな茶畑の下方で、枝を踏み折る持続的な音と同時に、一瞬黒い陰を目撃した程度であろうか。それも今冷静に思い返せば、クマだったのかどうかはアヤしい。
ワタシが「クマ」と聞く時、必ず「苫前三毛別(とままえさんけべつ)のヒグマ事件」を連想してしまう。
大正4年(1915年)12月の初旬、北海道天塩国の開拓村15軒が、6日間の長きに渡って家屋侵入に遭い、結果死者8名・重傷者2名、他に穀物と家畜が襲われた。このクマはその異常に遅い出没時期から、冬ごもりのタイミングを逃した通称「穴持たず」の典型だった可能性が高いと聞く。
降雪に見舞われ、空腹と苛立ちから凶暴性を発揮、かつて侵入経験のあった開拓 村落を襲った...
文献によると、1頭のヒグマが引き起こしたクマ事件としては、規模・残虐性共に史上世界最大なのだそうだ。多数の親戚を北海道に持つ当方にとって、幼少の頃から数多く聞かされ続けた クマ事件に関するエピソードの中でも、 この事件はひときわ印象深く心に残り続けてきた挿話である。
詳しい真相を知りたい方は、戸川幸夫著「羆風」、吉村昭著「羆嵐」等からどうぞ。
これは北海道で起こった数少ない例外的事件であるが、本来クマは臆病でおとなしい動物だそうだ。
かく言う自分も、フィールドで真新しい足跡を発見する度にヒェーと思うのは事実で有るが、正しい認識を持ち我々の接し方を誤らなければ決して恐ろしい動物では無いのだから、間違った固定観念は捨て彼らの習性をよく理解した上で上手に付き合おうではないか。
野犬
【事例1】
去年6月、雨畑水系・御馬谷を単独遡行中、最初の分岐流手前の左斜面に生き物の気配を感じた。最初はカモシカが数頭うろついているのかと思ったが、真ん中辺りに位置していた1頭に「ウォゥッ」と唸られギョッとした。そして、それらが犬の群6頭だとその時初めて知った。
中程に居てワタシに向かって吠えたヤツは間違いなく”ポインター”だった。近くに飼い主が居る雰囲気も無い。首輪を付けている様にも見えない。
さて困ったゾ、と思った。同時に、なぜこんな山深いフィールドに野犬が居るのだろうかと不思議に感じた。比較的民家に近い場所をテリトリーとしているのが定説だと思っていたから...
彼らとの距離は約30〜40m程。全頭とも微動だにする事なく暫くこちらに見入っている様だった。警戒しているのだろうか。
攻撃体勢をとっているとは思えなかったが、一斉に飛びかかられては難儀するのは間違いないので、念のため近くに生えていた適当な太さの枝をナタで叩き落とす。攻撃された時の 防御策にこの杖を振り回そうと考えたのだ。
どれくらいの時間、睨み合いが続いていたのだろう?その間、彼らから発せられる鳴き声は一切無かった。こちらとしては、この静寂が一番こたえる。ラチがあかないと判断したワタシは、先ほど落とした棒を左手に持ち右手で再びロッドを振りまわすと、釣りを再開したのだった。
視界には常に彼らの姿を入れながら「おまえらには興味無い。敵では無い。」事を行動で示そうと考えたのだ。
ワタシが動き出すと、それまでおとなしかった彼らは、いきなり右に左に動き回り、ワタシに向かってギャンギャンと吠えだした。この時点で正直「ホッ」と胸をなで下ろす。優秀なリーダーに統率された厄介な群ならば、やたらと鳴き声を張り上げたりはしないらしい。
ギャンギャンわめきながら、暫くすると彼らの群は、傾斜を登り反対側の斜面に消えた。

【事例2】
去年8月、同じく雨畑水系・御馬谷は、取水施設の数百メートル先を単独遡行中、前回のとは明らかに違う種の野犬3頭と出会う。パッと見た感じ雑種っぽい。首輪は無し。辺りに飼い主らしい人影も無し。自分との距離は約50m程。
左岸をうろついているところを、こちらが先に発見した形だ。正直「またかよ...」とうんざりした。一体ここにはどれだけの犬が居るんだ?毎回出会っているのは自分だけなんだろうか と考えたら、何故だかハラが立ってきた。
自分の存在をアピールしようと2〜3回続けて口笛を吹く。一瞬彼らの動きが止まる。と、一斉にこちらを振り向いた。3頭の内の2頭は、異常にワタシに興味を示しているご様子。身を乗り出さんばかりにこちらを凝視しているのがよく判る。 じっとしていて、何も行動に移す様子は無いみたいだけれど...
そこそこ歩き続けてここまでやって来たってのに、貴様らにぢゃまされて引き返すのは絶対にシャクだぞ、と棒で追い払いながら先を詰める事を考える。前回同様にナタで枝を叩き落としているわずかの間に、彼らの姿が視界から消えた。
まさか真後ろに瞬間移動して来たんぢゃあるまいなと、慌てて後方を振り返るが、それらしい個体は無くそれっきり消息不明。
この間数分程度だった。

【対策】
もしも野犬に攻撃を加えられる様な事態に陥ってしまったなら、膝上辺りまで川の流れに入る事。
俊敏な彼らの動きを封じる為だ。我々釣り人にとっては、常に川が身近に有るから、他のフィールドで出くわすよりも都合が良いと思う。
木によじ登るのはヤメた方がよい。上で腰を落ち着けられる様な都合のいい大木等そうそう有る訳が無いし、例え有ったにせよ登って攻撃から身を守ったまでは良いけれどその後どうする?
一番問題なのは、木に登って逃げようとする我々の姿を見た野犬は、アイツは自分たちよりも明らかに”弱い”と判断し、自分の優位を認識する事になる。一度でも弱い面を見せてしまった時、彼らは非常にどう猛で危険な存在に変貌する。
ノラ公から身を守る方法はただ1つ。相手に対して、こちらの弱みを絶対に見せない事が最大の防御となる。ワタシの経験では、これまで出会った野犬はみんな好奇心旺盛な様で、こちらの姿を見て一目散に逃げていった個体など一切いない。
そして山に入る際は万が一に備えて”クマ対策”欄でも記した「カウンターアソールト」の携帯をお勧めする。
サル
【事例】
数年前の6月。早川水系・保川上流に向け遡行を開始した。やがて人道トンネルを越え、エンコー平(猿公平)と広河原への分岐に差し掛かり、迷わず川通しの山道にとりつく。
保川沿いに南アの稜線まで出られる登山道は、もうこの頃には廃道となって久しく、注意しながら進まなければルートファインディングを誤ってしまう。慎重に道無き道を選びながら先を急ぐ。
陽も高くなり、ようやく薄暗い谷間にわずかな木漏れ日が差し込む頃、突然頭上の木々に沢山の猿が居る事を知った。滝の音にかき消されて彼らが自分に接近している事など全く気付かなかった。人道トンネルから数えて2つ目の滝を巻いた頃だっただろうか。
内の1頭がけたたましくギャーギャーと騒ぎ、両手で枝を揺さぶられると、細かい小枝や木の葉がワタシに降りかかる。
実は、彼らを興奮させるに値する理由があった。
間近で野生のサルを見られる機会など、そう滅多に有るわけでは無いので、彼らに対して凝視する形で観察し、持っていたカメラでフラッシュ撮影をしまくったのだ。恐らくこの行動が、彼らを興奮させたものと思われる。
手には8フィート強のロッドを握っていた為であろうか、ワタシに対して襲って来る事は無かった。
その後、一旦渓を挟んで反対の斜面に移動した群は、大凡30〜40匹程度の比較的纏まったコロニーである事を知る。オス達であろうか、時折けたたましく叫び声を上げれば、渓の音しか 聞こえない保川の谷間に、不気味な程透き通る声が反響した。
先ほどから、こちらの進むスピードに合わせている様で、ぴったりと一定の距離を取りながら付いて来るのがよく判った。彼らは明らかにワタシを意識している。そう感じ出した頃から、何とも言えぬ恐怖感に襲われた事を思い出す。こういう時ほど単独行動が心細い事は無い。
木々が覆い被さるここよりは、極力川岸にルートを取ろうと判断し、眼下断崖絶壁とも見える斜面をトラバースすると、一カ所のガレ場を見つけて渓に降り立った。彼らを無視するかのように釣り上がる。
面白い様に釣れてくるアマゴに、一時つけ回されている違和感から解放されるのだが、フッと左斜面を見上げれば、すぐ近くでワタシの行動を眺めているではないか。 一体何処までついてくるんだろう...
しばらく遡行し、前方に両サイドから絡み合う木々のトンネルをくぐろうとした時、再びけたたましく騒ぎ、猛ダッシュで右岸に渡り移る群を見送る事になる。
その後、急斜面を駆け上った彼らは、段々と遠く小さくなり、やがて右上方の林に消えた。 ホッと胸をなで下ろした瞬間でもあった。

【対策】
「山でサルに出会ったら目を見てはいけない」と、本サイトの遡行ガイドでも記した事が有ったが、これは一体何故なのか?
実は、ニホンザルが喧嘩をする時、お互いの目を見合って攻撃のチャンスを伺う。つまりは、目を見るという行為は、これからおまえと一戦交えようと言っているのと一緒で、喧嘩を売る意味合い になるのだ。(と言うかそうらしい)
だから、山で彼らに出くわしても、決して目を合わせてはならない理由がここにある。
ハチ
【事例1】
昔、友人とクワガタを捕りに山?(横浜汐見台の久良木公園)に行き、上方に流れ出る樹液に群がったクワガタを捕るため木登り体勢に。木の幹を抱いた瞬間、右親指に激痛を感じる。
幹裏の樹液をあさっていたスズメバチに気付かず、胴体を素手で押さえつけてしまった模様。
途端に、今まで経験した事の無いすさまじい鈍痛が右腕全部を襲い、痛みと苦しみで歩行も困難に。患部の親指は紫色に変色し、太さは倍にまで膨れあがった。
その後、最寄りの町医者に通院して完治。

【事例2】
友人3名との学校帰り、空き地に転がっているポリバケツをなにげに覗いてブィッくり。一瞬何がウヨウヨと動いているのか判らなかったが、すぐにバケツ容積の1/4 を占める巨大なミツバチの巣だと理解した。
血気及び食欲旺盛な年頃故に、ハチミツを採取しようと一致団結すると、巣を頂戴する行動を開始した。
遠くから一斉にバケツに向かって大きな石を投げつける事十数発、黒い固まりと化したミツバチの大群が我らを目がけて襲いかかる。カバンで払いながら逃げ悶えるが後の祭り。
今でもハッキリ覚えているが、刺された箇所は、頭から足の付け根に至るまで25ヶ所余り。
翌日、腫れ上がった頭と顔を押さえながら友人達と現場に行ってみると、あれだけ沢山居たミツバチは何処へ行ったやら。恐る恐る潰れかけたバケツを覗けば、中には見事な大きさの巣が光っていた。(達成感100%)
親父が一言「うまい」と発したのも印象的だった。

【対策】
まず何より、釣りにばかり集中して、気付いたらハチの巣が目の前に有った、なんてのは言語道断。山へ入る時は、常に周りの状況に気を配り、少しでも異常を察した場合は、それ以上 行動を続けない事。
「通常ハチが近づいても、だまって大人しく見守っていれば危害を加えられる事は無い」と断言する情報が有るが、ワタシは断じてそうだとは思わない。
なんたって下等動物であるし、クマやイノシシ同様、それぞれの個体で感じ方考え方が違うハズだから、虫の居所?が悪いハチがいたなら、ムシャクシャして我々に針を刺すヤツだってきっと居ると思うのだ。
つまりは、攻撃は最大の防御なり。特に彼らが活発に活動する真夏を中心に、山へ入る時は「捕蝶網(ほちょうあみ)」を常備すべし。
やたらとしつこく付きまとうハチには、捕蝶網を一振り、網に入ったら足で踏んづけて一丁あり。
この方法は、フィールドワーカーの弾正さんから頂いた策でもあるのだが、ワタシも全くを持って同感する。
この場合、網ならなんでも良い等と考えずに、上述した通り「捕蝶網」を準備しよう。ちょいとそこいらでうられている子供向けの昆虫採集用の網と違って、思いっきり振り回しても空気の切れが断然良く、ターゲットを極限まで定めやすく設計されている。
で、むやみに巣に近づく等して、もしもハチの集団から襲われてしまった場合はどうすればよいか。
素直に諦めて頂きたい。防虫ネットで身をガードしているなら話は別だが、生身の場合はどうしようも無い。唯一助かる可能性が有るとするならば、運良く川が間近にあれば即水に潜る事。
また刺された時は、アレルギー反応を押さえるために”抗ヒスタミン剤”の塗り薬を常備すると良い。情報によれば、内服した方が利きが良いらしいので、錠剤を準備するのも宜しいかも。
遭難、骨折等による突発的事故
【事例】
鉄砲水に飲み込まれ、命からがら生還したレポートを紹介。
詳細は、「ヤマトイワナ探釣記/2003年5月15日 : 早川水系 F川 F−1支流」から。

【対策】
フライフィッシングなる遊びは相手が自然である以上、次の予測が非常に難しい場合が多いのだが、決して無理をせず少しでも天候が崩れそうな気配を感じたら躊躇せずに下山するとか、 自分の知識と体力に合わせた行動を取るとか、面倒臭がらずに常に非常食や最低限の着替えを持ち歩くとか、言ってみればごく当たり前の行動が最も有効な対策である事に違いは無い。
山をナメる事なかれ。
Copyright 1999 ADAMS Yamanashi JAPAN