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【野呂川・北沢】 (8月) 山梨県・西部

対象魚 イワナ
釣果程度 ☆☆☆☆☆
混雑程度
サイズ ☆☆☆
放流実績 有精卵の放流が過去に数度有り
総合評価
解禁期間 3月15日〜9月30日
入漁料 日釣券(前売り)・¥800-/日釣券(現場売り)・¥1,200-
備考 野呂川最大支流
参考 天候及びフィールド状況 → 午前5時半入渓時点で晴れ無風
                  気温15℃、水温10℃

使用タックル →        ロッド・#3 SAGE SLT389
                  ライン・#3(SAGE専用ライン)
                  リーダー・クライマックス5X
                  使用フライ・#11アダムスパラシュート

北沢で釣りをするには、広河原から村営バスを利用するか、もしくは現地まで歩く。
名実ともに有名河川で有りながら、なおも多くの魚が残り続ける背景として、北沢まで我々を導いてくれる南アルプス林道に、一般車両の利用を規制する交通事情が有る為だ。 つまり、広河原から先を通行出来るのは、許可を受けた林業もしくは工事関係とバス車両のみで、我々一般人はバイクのみならず自転車をも持ち込む事は不可。その徹底的なまでの管理は守衛が見守る有人ゲートで厳重に行われている。自然保護を目的としているらしい。
野呂川にぴったりと寄り添った南アルプス林道は、1967年に着工されたが自然保護団体らによる建設反対運動が高まった理由で1972年に工事は一時中断。当時、国会に於いて建設中止の請願が採択されたが、森林開発公団は予定通り計画を進めたと聞く。1980年、貴重な原生林をなぎ倒し、多量に出た砂れきを野呂川に捨て、それまでの自然を見事にぶち壊して南アルプス林道は開通した。
訪れる度に目に留まるのは、林道が通る渓の片岸全てに於いて、道路から下方に向かって植生のない砂れき地と化し、樹林が着いていない光景。これは明らかに林道開発による自然破壊が原因なのであって、今さらマイカー進入禁止なる自然保護を訴えるとは本末転倒だとは思わぬか?挙げ句の果てには、野呂川出合いから北沢水源までの全区間に無数の堰堤が建設されるわ、本来居るハズの無いニッコウイワナが乱放流されるわで、今やこの北沢にヤマトイワナの陰は無い。
もう南アルプス一帯はメチャクチャな状況なのだ。

村営バスは広河原を出発すると、途中に一ヶ所有る”野呂川出合”の停留所を経由して北沢峠までは約30分。距離にして10.2Kmの道のりだ。この野呂川出合で下車する人達は、やはり釣り人が多く目立つ。始発の便で入渓し、午後の便で帰路に着くスケジュールを立てるのが一般的な様だ。
もしもバスで北沢を目指すなら、登山シーズンが最盛期を迎える夏休みだけの臨時ダイヤではあるが、始発の早朝6時50分広河原発の利用がお奨め。この便に乗ると出合いには7時5分に到着する。
ワタシと言えば、村営バスを利用して北沢入りする釣り人の先を越してやろうってな魂胆(<イヤな性格...)で、まだ夜が明け切らぬ早朝4時過ぎ、一路徒歩で北沢を目指し広河原を出発したのだった。
今回は北沢中流部から入渓して水源までを遡行する。行きは歩きでも、帰りは北沢峠発最終便15時30分のバスを利用して広河原まで戻って来る計画だ。 徒歩で稼ぐ道のりは15Km程となるが、帰りのリピートを考えなくても良いぶん、これくらいの距離なら朝飯前のお茶漬けサーラサラだ。(^^)

「北沢中流部の渓相」

広河原から1時間半をかけて8.4Kmの道のりを歩いて来た。ここは北沢の1900m地点。幾つも聳えるコンクリートの大堰堤全てを下方に見過ごして、その上からの入渓。 斜面を滑り降りるがほぼ落下状態。^^;
ちょっとばかり良心が痛むので、これからバスで来るので有ろう釣り人の為に下流部に入渓するのは控えた。
河原で焦る気持ちを抑えつつウェーダーに着替え、勝利のフライである”アダムスパラシュート#11”をタックルにセット。準備完了。(^^)
「標高1900m地点の渓相」

ここは本当に南アか?と疑いたくなる様なフラットな川っつらがいつまでも続く。水は何処までも透き通り、これらの渓を眺める時が山岳渓流の醍醐味を感じる瞬間でも有る。 魚影は濃く、ポイントというポイントからフライにアタックしてくるイワナ達に気の抜けない時間が過ぎてゆく。
型が細かいのが難点と言えば難点だが、釣り開始から1時間程で20尾の釣果を越えた。
「堰堤はダラダラと続くよいつまでも」

コンクリートの堰堤が姿を消すと、ご覧の銅製不透過型砂防堰堤(と呼ぶらしい)に姿を変え、これが何処までも続くのである。
ちなみに、北沢の堰堤はほぼ9割は右側を巻くので、砂防に出くわしたらまず右を見渡すと宜しい。
「標高2000m地点の渓相」

相変わらず型の細かい”ニッコウイワナ”が多く釣れるが、所々川幅が極端に狭まるので、ダイナミックな釣りは期待出来なくなる。
それと、ワタシの場合、長く歩く時はパックロッドの方が何かと都合が良いので、決まって8フィート9インチを持ち歩いているが、この渓の上流では長過ぎる。両岸の木々が覆い被さる箇所が多々有るので6〜7フィート位のロッドが良い。
「北沢長衛小屋」

上流で、微かではあるけれど「アォ〜〜〜〜ん、あぎゃ〜〜〜〜〜〜ぁ、ぎょえ〜〜〜〜〜〜っ」なる遠吠えに獣の気配を感じ、思わず腰に下げていたカウンターアソールトを握ってしまう。ところが、近づいてみれば、それはキャンプ中の学生連中が水遊びを楽しんでいる歓声であった...なんぢぁ?
いつの間にか長衛小屋まで遡行して来た事をこの時初めて知る。小屋前のビバークエリアには、ざっと30程のカラフルなテントが設営されていた。
#これぢゃこの先は釣れねーべなぁ
「長衛小屋上の堰堤を望む」

小屋の水場を過ぎると、北沢に掛かる丸太橋を渡る。これ以遠は、仙水峠・甲斐駒ヶ岳へ続く立派に整備された登山道を利用しながらの遡行となる。
写真の堰堤が有る標高2000mで釣れた本日最後の釣果。
以遠は、流れが途切れたり復活したりの繰り返しとなる為、恐らくこの場に生息する魚体が北沢最高峰に位置するイワナといっても良いだろう。
「これが北沢の水源だ」

魚影も無くなり、ヤブヤブのボサ川と化し、渓もチョロチョロ水となったところで、もはやロッドの必要性は無くなった。ザックにパックロッドを収納すると、 当初計画した北沢の水源を拝む為、闇雲にブッシュ帯を突き進むのであった。目指すは仙水小屋(地図で読むところの北沢小屋)付近の水源。
と思っていたら、長衛小屋の500m程上流で、地中からボコボコと沸き出す水源を発見。目標達成(^^)v。
#いゃ〜〜気が済んだ気が済んだ...
「北沢峠と長衛荘」

北沢の水源を後にしてから北沢峠までは30分程で到着した。現在14時50分。最終便まで40分も時間が有るというのに、既にバス乗り場に並んでいるハイカーの大行列を見た時にはかなり”鬱”が入った。平日だというのに、さすが夏休みである。
長衛小屋を含む北沢峠一帯は"黒河内国有林"に指定され、コメツガ・ダケカンバ等の巨木が生い茂る手つかずの原生林が広く残る貴重な森林地帯だ。 時々、森から優しい芳香剤の様な香りが漂ってくるのは、コメツガから発せられるものなのだろうか。
アクセスが便利になったと多くの人々は喜ぶ。だが本来登山や渓流釣りってものは、そこに到達するまで苦労に苦労を重ねてこそ、自然美を満喫出来ると言えるのではなかろうか。ワタシ流に言わせて貰うなら、林道もバスもいらない。欲しいのは、ただ単に手つかずの自然だけ。
ヨーロッパに初めて日本の山々を紹介したウォルター・ウェストンが北岳に登頂したのは1902年の事。もう100年も経つのだ。もちろん夜叉神トンネルなんて物も、南アスーパー林道なんて存在も無かった頃の話、一行は芦安村から鳳凰三山を越えて野呂川を徒渉した。当時の芦安村長・名取運一氏らの協力を得て、登山には10日間もの歳月を要したらしい。 自然を守り自然と共存するには、こういった自然に優しい付き合い方が大切なのだと思う。 現在の南アルプスをウェストンが見たとしたら、どう感じるのだろうか。残念な結末である。
帰りの車中で、年輩のおばさんハイカー達が、砂防ダム建設の影響で荒廃してしまった野呂川を眺めて「綺麗、素晴らしい」を連発していた台詞が妙に耳に残って離れない。

本質を取り違えるなと願うばかり。