[ホーム/"ヤマトイワナ"探釣記]



2000年5月29日 : 早川水系 A川


「おっ、ヤマトか?!」「よっしゃー、ヤマトだな?」...もう何回こんな言葉を発しただろうか。
まだ山梨県内に於いては、1尾も実績が無いだけに焦りと興奮で、最近1尾釣れる度に思わずこう叫んでしまうクセがついてしまったようだ。
だれかと同行した時、とっても恥ずかしいから早くヤメなきゃ。

ちょうど1ヶ月前の4月29日に天竜川水系に足を運んで以来のヤマト探釣になった今回、前夜の地図読みで3時間をかけて場所を吟味した。
私がヤマト探釣に選ぶ川は、険しく人が容易に入渓出来ないところに極力重点を置いている為、いざフィールドについて「唖然...」となるケースが往々にしてある。
「そりゃそーだわ、人が入れない場所じゃ、オレだって入渓出来ねーべ?」
しかしながら昨今の事情では、こうまでしてでも山奥の渓に行かなければヤマトイワナに出会えないのだから仕方が無い。
この日もご多分に漏れず、選択した川は山梨県の西側に位置する山岳渓流である。エントリー地点は標高1000mに欠ける位置に有り、今回の計画では、これより上流の標高1500m に位置する支流分岐点までの約10数Km区間を探る事にした。
国土地理院発行の1/25000地形図を読む限りでは、堰堤や大滝の存在は無いようだ。
早朝のひんやりとした空気につつまれ車止めから歩くこと30分、だいぶ身体が火照ってきたころ渓に到着。辺りを見回すとアカマダラのハッチ が確認出来たので、迷うこと無く私のパイロットフライである”アダムス・パラシュート#12”を結んだ。
「たのんだぞぉアダムスちゃん、頑張ってくれっ」と願いを込めて第1発目を投じると、いきなりバシャっとアタックがあった。こちらも初めから飛び出して来るとは考えて いなかったのでビックリして痛恨のバラシ。
まず、今のヤツを獲ってみない事には、この渓の事情は解らんとばかりに躍起になって仕留めたのは”アマゴ”であった。「もう君はいいっちゅうに、お願いだから姿見せないで!」
初めにアタックしてきた時のスプラッシュに、みょーなスピード感が有ったのでイヤな予感はしてたんだぁ。
ムカつきながらやむなく納竿し、逃げる様に上流へ向かって移動する事にした。
それから約30分の後、もうここまで上がればヤツら(アマゴ(^^;)から解放されただろうと、再びロッドを出す。
瀞場の開きから頭を出している岩の手前で、なんだか一瞬魚影を見たぞ!おおそーだ今のは魚に違いない。半分不整脈になりながら、照準を絞ってキャストすると、なんとまぁ
ビッタシ・パッチリと点の上にフライが落ちるではないか。
「俺も上手いもんだよな、1cmの狂いも無く投入するもんな」等と自分にホレボレした瞬間、いきなり黒い魚体がアダムス・パラシュートをくわえ込んで反転した。
「出た!出やがった!ヤマトか?」(まだ言ってるし...)
無事にランディングネットに納まったそれは、紫色に輝く綺麗な体色のイワナだった。朱斑の体側と若干確認出来るまだら模様に一瞬息を止める程にドキッとしたが、落ち着いて見ると どう眺めてもハイブリッドと読むには無理が有る。「ちっ、ニッコウか...」
でも結果はどうであれ、イワナの存在が確認出来ただけでも大きな収穫だ。
その後、落差5〜6mくらいの滝に行き着くまでの約4時間に於いて、写真の様な体色鮮やかな黒いニッコウイワナが9尾つれた。
以外にも6〜7発のバラシが有ったので、その内の何尾かがヤマトだったかも知れないと考えると、もう居ても立ってもいられなくなる。
お願い釣られてちょーだい!居るんでしょ?お写真撮るだけだからぁ

しかしまぁ、未知なる渓に分け入って、こんなにも釣果に恵まれた事は珍しい。次のポイントを岩陰からそーっと覗くと、だいたい1尾ないしは2尾の魚影が有り、フライを追って来て 飛びつく光景が確認出来るのだ。
もう、見える魚は釣れないって持論は捨てよう。
上述の滝をどうにか高巻いて釣りを開始すると、滝下とはガラっと変わって極端に魚影が薄くなった。稚魚イワナが釣れるから魚止めの滝では 無い様だが、ガツンとくるアタリは全く無くなってしまったのだ。
考えてみれば、暗く寂しく奥深ーい源流部の渓なので、もともと魚の数もそう多くは無いのだろうし、下流の様な釣果を期待する方が間違っているのかも知れない。
もうこの時点でヘトヘトに疲れていたのだが、ひとまず目標を立ててしまった以上、支流分岐点までは足を延ばさない訳にはいかない。
ここぞと思うポイントだけを拾い釣りし、全く釣果の無くなってしまった渓を進むこと約1時間半で目的地に到着。それにしても先細りの小さな流れだなぁ等と考え、辺りを 見渡すと少し先にちょっとしたプールの存在が目に留まった。
今風に表現するなら、”チョー”お腹が減ってしまって、帰りの体力も残さなければならない事から、このプールを最後にしようと決めた。
第1投目、シーン。第2投目、シーン。
ここ数時間のプロセスからして釣れる気など全くなく、終始気持ちは晩飯の事で頭が一杯だった。確か出掛けにうちのおかんが、今晩はシチューにするとか言ってたなぁ... あぁ食いてぇーやー、引き返すの面倒くさいなぁ...等と考えながらの第3投目。途中まで流れてきたフライが、モコッと盛り上がった水面に引っかかる様に消えた。
「えぇ?うっそぉー!」正気に戻り、慌ててロッドを立てると、今までとは違った重い感触が手に伝わる。
「こりゃ、ヤマトだろー(またかいっ)」と直感し慎重に丁寧に寄せる。1、2度走られた後に難なく無事にネットに収め、中を覗き込むと...
時間の経過と共に段々ハラが立ってきた。ヤマトだと思ったのにぃ。
それが右上の写真。型こそ30cmに3cm足りない良型では有るけれど、嬉しくないんだよなぁ...源流になればなるほどこんな思いが強く残る。 どうでもいいけどオマエちょっとからだ白いそ、不健康だ。

今回も空振りに終わった。こりゃ、想像していた以上に難儀な企画になりそう。
今、冷静さを取り戻し改めて考えるに、あんな源流に良型が棲息していたのだから、ヤマトゲットの可能性は高いと見た!
いやいや、あの渓には絶対棲息しているに違いない。断言する理由は無いものの、これは私の当てにならない直感である。