2018年04月15日 : 釜無川水系A川
2003年05月15日。
早川支流への単独行の最中、急激な増水に飲み込まれて死に損なったあの日(レポート:早川水系F川F−1支流)から早15年の歳月が流れた。

命からがら生還した後も目とひざの痛みが激しく、それ以降しばらく医者の世話になる事となった。
診断の結果、眼球にはキズが付き何ヶ月も点眼治療のために眼科へ通った。右ひざは、脛骨(けいこつ)の付け根付近がボッキリと折れていた。骨折に輪を掛けて、ひざと足首も靭帯損傷で幾度となく溜まった水を抜いた。 水と言っても、それは真っ赤に染まった血液そのものだった。

あの時の目の怪我は、今もそのキズがはっきりと残ってしまい、右ひざの怪我は今もって完治する事は無く、時々ひざが抜けてその度に何ヶ月も歩行が困難になる症状をもう15年もの間繰り返している。 これは「ロッキング現象」と言うらしい。自宅や街中であれば、周りに誰かしら助けを求められる人がいるのでまだ何とかなるけれども、ひとたびフィールドに出向いた時に発生する事が何よりも問題だ。
先月(3月24日)、世附川に独りで釣りへ出掛けた時に土沢でこれをやってしまいエラい事になってしまった。 ここでは詳細は割愛するが、後日別コンテンツで掲載出来たらと思う。

これまで繰り返してきたヒザのトラブルを振り返ると、もうワタシの右ひざは悲鳴を上げているようだ。恐らく、もう身体に負担が掛かる行動は控えなければならない時期に来ているのだろうと思う。 だとすれば、まだ身体が動く今のうちに、最初にヤマトイワナの生息域を見つけたひときわ印象の深いあの渓にどうしても行きたい。再びあの渓に立ち込んで、元気よくスプラッシュライズを繰り返す彼らの雄姿をもう一度見ておきたい…
クルマを駐車した場所から生息域までは、谷を2つ越えなければならず、この自由の利かない右ひざではどれだけの時間が掛かるものか皆目見当がつかない。 なにより単独ゆえに頼れる仲間が居ないこの状況で、何かトラブルがあった時は帰還出来ない事を意味する。救助隊に助けをかりる等といった事は絶対に避けたい。 そう考えると踏み出す一歩がとても重く感じられる。

あの時と同じく今も彼らは健在でいてくれるのだろうか…あれから20年近く経つが、もう生息して無かったらどうしよう…そんな事ばかりがアタマをよぎる。 慎重にゆっくりゆっくりと距離を詰め続けると、やがて下方から沢の音が聞こえてくる。1つ目の谷を降りきると、ここで渓の流れを一旦徒渉する事となる。これから目指す生息域の下流部にあたるのがこの渓だ。

良ポイントが連続する川っ面に居ても立っても居られなくなり、早速タックルを組むが結ぶフライに悩む。4月も半ばだと言うのに、ここはまだハッチの1つも確認出来ない。さっき目に留まったアリを思い出し、 16番のパラシュートアントをチョイス。この選択が功を奏した?のか、いきなり綺麗なアマゴが飛びついてきた。
初めてここに入渓した時もアマゴしか居ない渓なのかと思ったが、下流はアマゴ・上流はイワナといった具合に、両者の住み分けがハッキリしている数少ない健全な渓の1つだ。 ここは漁協による放流は一切行われていない事からも、渓の健康度合いが理解できる。
目的のヤマトイワナでは無いが、ボーズを真逃れた事で何となくはやる気持ちが落ち着く。
目的地まではまだまだ時間が掛かるので、ここで一旦納竿。調子良く釣れている時に竿じまいするのは辛い。
ふたたび渓から離れて獣道を進み2つ目の谷を越えた頃、大きな滝が視界に入ってくる。以遠へ行くには右の斜面をトラバースするのが策として最も安全と思われる。大して危険の無い滝だと思うが、ここは25年程前、遭難者が水難事故で命を落としたとされる場所。 未だ発見されず、現在もこの周辺に眠っているものと思われる。

滝上から本格的に釣り上がるが、先ほどとは違い全く反応が無い。昔ここへ探索に訪れた時は、この辺りでは釣果があった様な気もするが、はて?どうだっただろう…
いずれにせよ、全く釣果が無い状態がしばらく続く。来る時に、もう居ないかも知れない等と不吉なことばかりを考えていた事を思い出す。 そんなモヤモヤした状態が長く続き、気持ちが萎え始めた頃、図らずも右側の小さな淵をサッと横切った影らしきものが視界に入る。
「うっそでしょーっっっっ!今の絶対さかなだわっ!!!」
こうなってくると、これまで張りの無かった気持ちが一気に高ぶり、がぜんヤル気を出す。

それから程なくして、小さな魚体ではあったが綺麗なヤマトイワナがフライに食い付いてきた時には、地にひれ伏す思いで感謝した。 20年間生き続けていてくれた事への安堵感と同時に、もはやこんなところでしか生きる術の無い彼らに対して、エサとだまして口に針を引っかけた事への罪悪感で、なんとも言えない気持ちになった。
やっぱりヤマトイワナは釣ってはいけない魚なのだろうなぁ…

訪れた季節がまだ早すぎて魚の活性が上がって無かっただけの事だとすれば良いのだが、この生息域を探り当てた当時に比べると、どうしても数が減っているのでは無いか?との思いが否めない。
ワタシが焦る理由はもう1つあって、探索を始めた20年前と現在を比べて、保護に関する自治体の対応が全く変わって無いと言う事。保護活動の気運が全く感じられないと言う事。 生息数やエリアが増えているならまだしも、そんな好転的な話はワタシの耳には届いてこない。
場所を隠す配慮は必要な措置だが、もはや渓の名前を伏せるだけではヤマトイワナは守れないと思うのだ。

山梨県に於けるヤマトイワナの認識や、今後の保護活動の状況について、明確な自治体としての方向性が知りたくて何度か県に問い合わせたがまだ返答はない。

『(一部抜粋)
20年程前に釣りの対象魚であるイワナには「ヤマトイワナ」と呼ばれる希少種が存在している事を知り、これをきっかけに興味を持ちこれまで個人的に探索を続けてきました。
当方が知る限り、ヤマトイワナの生息域はごくわずかな場所に限られ、年々その生息数が減り続けていると感じられる流域はいくつもあります。 私見ですが、生息域への立ち入り禁止区域を設けるとか、終年禁漁区を設定する等の策を講じなければ、県内の種が絶滅するのは時間の問題と危惧しています。
山梨県希少野生動植物種の保護に関する条例や、県ホームページのレッドデータブックなどに目を通しましたが、希少植物(キタダケソウ・ユキワリソウ・アツモリソウ等)の記載はされているものの、 ヤマトイワナについては特定から外れている様に見受けられます。
県としてヤマトイワナの希少性についてのご認識がお有りか、ヤマトイワナの保護について某かの動きがあるか、今後希少野生動植物種の保護条例に特定される向き(予定)はあるか、 以上3点についてご回答頂ければと存じます。』

何らかの前向きな回答を待ちたいところである。
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