ホーム > 渓流遡行ガイド > 世附川・バケモノ沢
【世附川(よずくがわ)・バケモノ沢】
神奈川県西部(2018年05月31日)
対象魚 詳細情報は酒匂川漁協のページを参照
釣果程度
混雑程度
サイズ ☆☆
総合評価 ☆☆☆
備考 神奈川県の秘境。西丹沢の甲相国境尾根(こうそうこっきょうおね)に端を発する県内外問わず有名河川の1つ。
世附川の詳細は、世附川・大又沢(2018年04月26日)の冒頭を参照されたい。

バケモノ沢……なんとインパクトの強いネーミングだろうか。
他にも「地獄沢」だとか「オバケ沢」だとか、中にはアイヌ語を連想させるような奇妙な河川名が付けられている渓も見受けられ、丹沢山塊は地図を読むだけでもなかなか興味深い。 貴方なら "バケモノ沢" と聞いてどんな渓を連想するだろう。バケモノの様な大物が数多く釣れる渓か?深山幽谷に人知れず出没する幽霊に取り憑かれるイメージか?
是非とも前者であって欲しいと願うところだが、実際にはこの渓も人気河川の1つに数えられ、故に足繁く通う健脚者は少なくない。 釣り人の往来が頻繁であるという事は自ずとプレッシャーが高くなるので、いくらエントリーに時間を要し魚影が濃い幽谷であっても、必ずしも恵まれた釣果に比例するとは言いがたい。

尚、ここバケモノ沢では、2006年に実施された丹沢山塊におけるイワナの分布調査で、ヤマトイワナが捕獲された実績がある。 まさか丹沢固有種なのか?と大いに期待したものだが、塩基配列を調べた結果、滋賀県の養鱒場に於いて各地の系統が違う親魚を使い種苗生産された個体が、丹沢の河川に移植流入されたものと結論付けられた。
あわせて、これまでヤマトイワナ生息の東限は酒匂川である事は広く認められていた定説だが、本来丹沢にイワナは生息して無かったか、もしくは遙か昔に絶滅したとの研究結果が発表された。 よって現在、丹沢の各河川に生息しているイワナは、度重なる放流によって2次的に分布したと考えるのが自然なようだ。
いずれにせよ、過去の文献や分布データが少なく、限られた資料を元に仮説を立てるしか手立てが無いのが実情のようである。
「マーキングマップ」
この沢を含めて、イデン・白水といった渓へ入る時は、他に入渓する時とはちょっとばかり心構えが違うので、いつも沢割りの時間には余裕をもって到着する。
ワタシだって早く来ようと思えばチャント来られるのだ。

平日の早朝3時過ぎって事もあって、マーキングはまだ1つも付けられて無い状態。
どうやらワタシが一番乗り。
「浅瀬の漁協コンテナから西の甲相国境方面を望む」
ただ今3時20分。平日に沢割りなんてやんないんだから直ぐにでも山に入りたいところだが、その衝動をおさせてルール通り4時まで漁協コンテナ前でジッと待つ。
3時40分ごろ人が近づいて来る。時折目に入るヘッドライトの光りがまぶしい。 簡単な挨拶を済ませて二言三言会話を交わすと、どうやら野鳥写真家のようで、ヤマセミを狙いに来たらしい。ここはフィールドが広くテリトリーも広いので写真に収めるのが大変だという。
小森川の中流に行けば、いつでも間近に見られますよ!と教えようとしたが、先を急いでいるようだったので余計な事を伝えるのはヤメた。
「富士見橋」
闇の中をヘッドライトの光りだけを頼りに先を詰める。辺りがだんだん白んでくると、稜線に霧が掛かり早朝の何とも幻想的な風景に惹かれる。
今日は少々天気が悪そうだ…

2時間後、地蔵平に到着。
右の地蔵堂に拝礼して富士見橋に。この橋の少し上から入渓するのだ。
「地蔵平の入渓地点」
早速準備を整えて、いざ釣り開始。
「第一堰堤」
地蔵平から入渓して最初の堰堤がこれ。
幅は広いが高さが無いので巻くのは容易。
「セギノ沢との合流点」
上記の堰堤を1つ越えると、まもなく2沢の出合に到着する。
左沢がこれから詰めるバケモノ沢。

手前流れ込みのプールで1回反応があったがフッキングに至らず。しばらく粘ったが、その後アタックしてくる事はなかった。
「バケモノ沢を望む」
下流はフラットに近い流れが暫く続き、標高を稼ぐ向きはまだ無い。
ときどき小さな魚がアタックしてくるが、まだ釣果には至らない。

たまに雲の切れ目から陽の光が差し込むものの、それも一瞬の出来事。
どんよりとした天候が手伝って、渓の中はたちまち暗くて重い雰囲気に包まれる。
「バケモノ沢を望む」
相変わらず渓相はフラットに近い。
深みの無いポイントが多く、障害物が無い渓は見通しが利くからなのか、どうしてどうして?フライに食い付いてくるヤル気のあるヤツとはまだ出会えない。
いずれにしても目視できる魚体は細かいものばかり。
「第二堰堤」
右斜面を巻く。
斜度がきついので滑落に注意の事。
「第二堰堤上の渓相」
相変わらず流れはフラットで難所は無い。
ときどき反応はあるが、#16のフックでは大きい?のか、未だ釣果無しの状況が続いている。
もっと丁寧に探って、フックが大きいと思うならばサイズダウンすべきだろうが、遠路ここまでやってきて小物になぞ用は無いのである。
「四段ナメ滝」
ようやく姿を表した一枚岩の間を滑り落ちる四段の連瀑。

この滝の落ち込みで、待望のヒット。27cmのイワナをキャッチ!
釣果を得るまで長い時間だった…もしかして今日はボーズで終わるのかな?と半ば諦めモードが入っていただけに、これは嬉しい釣果。

ここから急激に渓の斜度が上がり、一気に高度を稼ぐ。
「四段ナメ滝」
二段目。
「四段ナメ滝」
三段目。
ロッドを振らずににやり過ごそうと思っていたこの落ち込みを何気に見下ろしてブィックリ!
凝視すると、淵の中心に定位して動かないのは岩?の影ではなく魚ではないか!デカい!!!って言うか、あいつオレに気付いて無いのかな…
抜き足差し足で引き返し、下の段差の影からキャストを繰り返して何投目かでヒット! トリプルゼロのロッドがバットからしなる。引き抜けないので、一旦淵の開きから下に落としてジ・エンド。32cmのイワナ。(トップ写真)
「四段ナメ滝」
四段目。
尾白川の上流みたいに、だれかハーケン打っといてくんないかな…
ナメ底の岩はメチャクチャ滑るのに輪を掛けて、今使っているビブラムソールは滑りまくって先に進むのが怖い。足下の確保が大変である。 こういった場所では、やっぱりフェルトソールが強いなぁ。
8本打ったスタッドは何の役にも立たず…
「第三堰堤」
ようやくこれでナメ滝をクリアーかと思いきや、最後の滝の更に上に、ダメ押しの第三堰堤が鎮座している。
右斜面を巻く。
「第三堰堤から下を見下ろす」
この堰堤ってどんな意味があるんだろう…

それにしても、このナメ滝で大きいのが連チャンで釣れるとは思わなかった。
なんかもう釣果に満足してしまって、この先は惰性で釣り上がる。
「四段ナメ滝の場所」
釣りの出発前に携帯が通信可能な場所で、予め地図データをキャッシュしてから入山する事。
こうしておけば、携帯が圏外になっていてもGPSが利用出来る為だ。
位置情報が機能すると、今自分がどの辺りにいて、どの方角へ向かうべきか、そして何処に到着すべきか、合わせて大凡の距離も把握出来るので、何かの際には心強い情報源となる。

右のキャプチャ画像は iPhone の「Google Mpas」を使った四段ナメ滝の場所を示している。
「第三堰堤以遠の渓相」
写真のナメ床を右からクリアーして、少し進んだところで、本日の釣りはここまでとして納竿。

林道終点の脱渓地点まではまだまだ距離があるのだが、立て続けに釣果があった事で先を詰めるのがかったるくなってしまって、途中から林道に這い上がる事を決める。
って事で、これより釣り上がってきた沢を少し戻って、脱渓地点まで移動する。
「脱渓地点と脱渓ルート」
ここバケモノ沢は一旦中に入ってしまうと、林道最終地点のザレ滝まで脱出ルートがほぼ無い渓なので、なにがしかの理由によって途中で切り上げたいと思っても、先まで詰めなければならない必要がある。 渓流は、遡るよるも下る方が何倍ものリスクを伴うので、これまでクリアーしてきたナメ滝や堰堤の巻きを、逆の道のりでたどる(沢通しで戻る)事は避けた方がよい。
林道と渓との高低差は、深いところでは優に120mを超えるため、容易に上まで這い上がる事も無理である。この渓がシビアな理由はここにある。

とは言え、脱出ルートが皆無かと言えばそんな事は無くて、ワタシが知る限りルートは存在する。左の地形図がそれである。
場所は赤く記した通り。

下から見上げると、頭上高くに枯れ沢を大きな倒木が横切っているので、これをランドマークにすると宜しい。
枯れ沢のザレを這いつくばう状態で登る。林道は渓から80m上にあるが、途中から右上の杉林に入れれば、木々によって足場が確保出来るので、しんどい斜度も登りやすく感じる。

ちなみに、けもの道も踏み跡も無いので、迷わない様に注意の事。V字帯の枯れ沢を途中まで登ったら、上がれそうな箇所から右の林に入るのが吉。
後はひたすら上を目指す。
「登り切った地点の林道を望む」
もはや林道とは呼べない…
昔からこんな状態の廃道だった。崩落箇所も多く存在し、林道の痛みが激しい。エッジを踏み外すと下の沢まで真っ逆さまとなる箇所も多い。
踏み跡を見失わない様に、慎重に先を稼ぐ。
「登り切った地点から下を覗く」
渓は目視出来ない。
はるか下から、かすかに沢の音が聞こえてくると言った具合だ。

林道を進み渓との距離が近くなる頃、やがて前方にセギノ沢に掛かる大滝沢橋が姿を現す。 この橋から順調に進めば地蔵平までは10分程度。"順調に進めば…" と記したのは、途中で沢が林道を寸断し、ルートファインディングをミスる可能性がある理由による。
だが進むルートを見失っても、林道は「セギノ沢の向かって左側」と覚えておけば、最終的には林道を辿れるのでトラブルには至らない。
「本日午後のマーキングマップ」
脱渓地点からは距離にして10km強と思われるが、あっちこっちとルートを探しながらの下山になるので、浅瀬のクルマ止めまでは3時間程度の所要を見込んでおけば間違い無い。
参考までに、地蔵平からクルマ止めまでは、約8kmの距離である。

今日は自分を含めて7名前後の入渓者がいるようだ。
以上、準備を万端に整えて、安全で楽しい釣りを。
Copyright 1999 ADAMS Yamanashi JAPAN