[ホーム/"ヤマトイワナ"探釣記]



2000年4月29日 : 天竜川水系 A川


ヤマトイワナの探釣を誓った数週間前、そろそろ桜の便りが聞かれる時期に入り、連日のポカポカ陽気とようやく芽吹き始めた周りの木々に刺激される。 このぶんだと南アルプスの源流部も暖かくなった頃だろうと山並みを眺めて見ると、こちらの気持ちは何の其の、頂はガッポリ雪に覆われ、標高の高い源流部を狙っている私にとっては、 これほど春を恨んだ事も珍しい。
そんな我慢も限界に達し、年季も明けぬままの先週末、相変わらず綺麗に雪化粧している甲斐駒ヶ岳を後目に釣行を決断。

さてどこから調べようかと考えると、なかなか行き先は決まらない。ましてやゴールデンウィークの初日とあって、連休の渋滞に巻き込まれたら貴重な時間 が台無しになる事を十分考慮する必要があった。
迷いに迷った挙げ句、取りあえず、以前ヤマトイワナを釣った天竜川に足を向けてみる事にする。

明け方6時前、去年履いたままのスタットレスタイヤに気を使いつつも、はやる気持ちを抑えられずに林道を疾走する。クルマをブッ飛ばしながら、度重なる堰堤の数にイヤな予感。
考えてみれば、以前訪れた際にはこんなに多くの砂防ダムはなかったハズだから、ここまで改修工事が進んだ渓に、果たしてヤマトイワナが棲息しているのか一抹の不安を隠しきれない。
そんな理由が手伝って、堰堤を避け自然体の渓になるまでクルマを進める事30分。ついには、標高1600mを越える地点まで登って来てしまった。午前6時半での 気温はマイナス1℃。 いくらなんでも源流に来すぎた感が有るが、下流には既に釣り人の車が数台止まっていたし、引き返す時間ももったいないので、やむなく付近に流れ込む支流に入渓する事にした。 (此の上ない上流に来ているのに、まだ支流を選ぶ?)
凍てつく寒さの中、身支度を整えいざ入渓して見ると、流れ際は氷で覆われ、寒さで指先がジンジンと痛い。千曲川の解禁当初はマイナス16℃の極寒釣行を毎回続けていたのに、喉元過ぎれば熱さ 忘れるで、たかだかマイナス1℃の気温が辛いこと辛いこと...
当然の事ながらドライを選択する事無く、昨晩巻いたクロカワムシのイミテート、オリーブオリジナルフライで釣り上がる。1つも魚信が無いまま40分余りが過ぎ、 川幅は1mくらいにまで狭まった。「もうそろそろ水源?」と感じるションベン沢になった頃、ちょっとしたポイントで本日初のアタリを手に感じた。 思わず興奮し、すかさずロッドを軽く立ててアワセを入れる。「でかい!」。尾ビレを左右に激しく振り、暴れ狂う魚体にティペット8Xを選択していた後悔が怒濤の勢いで脳裏を渦巻く。 「たのむ!外れないでくれっっ」と感じた時には、寄せるよりも先に流れに駆け込みネットにすくい入れていた。

ここまでは、ランディングネットで”く”の字に横たわっている彼が、ヤマトイワナである事を信じて疑わなかった。それもそのハズ、多くの人が相手にする事の無い様な 小さな小さな沢で、踏み後もゴミも無い場所での釣果であるから、昔からの根付きヤマトが残っていたと感じるのも無理は無い。
ネットを覗き込んで「あれっ...?」、もう一度見直して「...?」。手にしていたのは、紛れもない23cmに満たないニッコウイワナに他ならならず、失望は 結構ひどいものだった。でかいと感じたのは、#0のロッドを使っていたせいで、ネットで”く”の字に曲がって見えたのは、あみ自体が凍っていた為。
もはや、こいつがネイティブであるかなんて、もうそんな事はどうでもよかった。
問題は、標高1600mを越える支流に於いて、ニッコウイワナが釣れてしまった事実。しかも事前に調べた情報と唯一の釣果経験からして、この支流には今も必ず 存在しているとの確信を持って出かけただけに落胆は大きい。漁協がこんなにも上流まで放流しに来たと解釈すべきなのだろうか?まるで渓流でブラックバスを釣り上げる様な感覚に、この時ばかりは 単なる釣行では喜べるイワナの釣果が、なんだか空しく思えてしまった。
ヤマトイワナの探釣は、これが今年初だったにも関わらず、期待しただけに悲しい。容易に出会う事が出来ない魚種であることも、初めから結果が出ないことも、 重々承知していたつもりであったが、そこに辿り着くまでのプロセスを苦労と感じてしまうと、やはりショックは隠しきれない。

この後、支流を諦め本流スジを攻めてみたが、同じくニッコウイワナ(25cm)が1尾釣れただけで、この日、ヤマトイワナの雄志に出会う事は出来なかった。


次回、がんばんぞー!