[ホーム/"ヤマトイワナ"探釣記]



2001年3月17日 : 早川水系 C川 C−1支流



「ん?この渓か?!」
すかさず地図を取り出し、周りの山並みと今自分が立つ現在地を割り出す。予め地形図で読んだ流程から想像していた規模と違い、注意を払わなくては気付かずに通り越してしまう程の小さな 流れだ。切れ込んだ入り口のV字帯は、日の光が届かない理由からだろうか、薄暗い先には滑り落ちた残雪が確認出来た。
今までヤマトイワナ探索に足を運んだ所と言えば、そう簡単に水源を明け渡してくれない程の暴力的な流れが、何時でも来いとばかりに私の目の前に立ちふさがる渓ばかりだった。そんなギャップに、現状の 小渓流を眺めて、いささか困惑を覚えていた。
ここは有る方から教えて頂いた沢で、”ヤマメ(アマゴ)の渓”だからヤマトはあまり期待出来ないとの情報だった。
ただ、一昨年辺りから本格的に始めたこの周辺の情報収集の結果、近隣支流のいずれにもヤマト生息の事実が有るだけに、どうしても自分の目で釣果有無を確認しなくては気が済まなかった。

まだ早春のこの時期ヤマト探索へ

午前3時半、時間も時期も早すぎるのは判っているが、そわそわ落ち着かない理由で、「えーい、行っちまえ」とばかりに自宅を出発。
午前5時半現地手前に車を止め、さっそうと斜面を下ると、まだ薄暗い奔流沿いを上流に向けて歩き出した。
現地出会い午前6時着。気温0度、水温5度、ハッチ無し、ライズ無し...
暫く出会い付近から上流を眺めていたが、別段変化も無く仕方が無いので、ルースニングで釣り上がる事に決定。チョイスしたのはADAMSスペシャルの”クロカワムシ”。
こう言った源流地帯の夏は、行商人スペシャルの”クロカメムシ”が威力を発揮しそうだが、時期的に早すぎて使えないのが悔しい。
流れるマーカーを凝視しながら10分程進んだ地点で、深みへフライを投入すると「クン、ククンッ」と流れに逆らったマーカーの不自然な動き。思わずシャッとアワセると、 自作バンブーロッドが弓なりになった。まさにお手本通りのスマートなインパクトに惚れ惚れする。「ををー、オレってカッコイー」と...
そんなのん気な事を考えられたのは一瞬だけで、確実に手元へ魚信が伝わってくるのに寄せられないのは獲物がデカ過ぎるのか、ロッドテーパーを間違ったのか?
取り込んでみると、22cmのアマゴの体側にはフライが刺さっていた。
「チッ、スレかよ」
んー?スレはいいけど、こんなに曲がるもんかぁ...

ロッドが折れやがった
再び美味しそうな淵に出っくわし、高鳴る胸を押さえつつ1投目、と思ったら後ろの小枝にフライを引っかけライントラブル発生。「あーもーやると思ったんだぁ」
クロカワパターンのフライが残り少なかった理由で、届かない枝を引っ張るつもりでバンブーを逆さに持ち上げ、リールを枝に掛けようとした瞬間、ぬわんと「パキッ」と乾いた音がして、我がバンブーは フェルール部分から真っ二つに折れやがった。
車まで替えのロッドを取りに戻る気にはなれないし、ティップだけでラインを振り回して見るものの飛びゃーしない、あーんこんなとこまで来てどうしよう...
と、ひらめいた!フェルールに深く埋もれたティップ側のフェルールを歯で噛み引っこ抜くと、セクションの根本をナイフで内径の形状に削り出し、再びバッドフェルールに突き刺した。
これでいーのだ。(^^)  不思議な事に折れる前よりちょーしいーんだわ、これが。

突如穏やかな河原が出現
その後、15cm・18cmのアマゴを釣り上げ、絶好調とばかりに先へ進むと、大岩が行く手を塞ぐ。
”初めの高巻きは右から”と予め教えられていたので、迷わず右崖を見上げるが、巻ける様な箇所は見つからず、どうしようかと考えていると、なんと上から茶色くサビついたワイヤーロープが垂れ下がって いるではないか。複雑な心境で、ロッドを岩の上に放り上げ、ワイヤーを利用し自分も岩の上へ。
暫くV字帯が続くが、写真の裂け目をくぐると、今までの渓相が信じられない位に広々とした河原が現れた。
この頃から、突き進む私の陰を察して、逃げまどう魚影を何度も確認する事になる。魚は聞いていた以上に濃い様だ。悟られない様に、遠くからフライを投入すると、マーカーがグングンと 動くがフッキングには至らない。迷わず#16のヘアズイアーに交換する。
途端に1尾のアマゴが釣れ、やはり食しているサイズは小さいと判断する。
水苔に足を取られながら、開けて明るい河原を釣り上がる。この辺りは良ポイントが点在しており、覆い被さる木々も少ないのでフライをロスする事が無くなった。
時計を見ると遡行開始から4時間、丁寧に釣り上がって来たとは言え、だいぶ遡って来たハズだが、脇に幾つか流れ込んでいた沢が地図に載って無いので、自分が今どの地点に居るのかが 全く判らない。こんな時の為に今年は絶対に”ハンディGPSシステム”を購入しよう。これが有ると、正確な現在地と方角が判るので、目くじらを立てて地形図と睨めっこする必要が無くなるのだ。
欲を言えば、「アト200mススムト、ラクサ15mノタキガシュツゲンシマス。ミギヲマイテクダサイ」とかなんとか言ってくれる優れものが有ればいーのになー。頼むぜSony!


あんぎゃー、スノーブリッジの上に立っちょった...
それから約1時間の後、事前情報の通りに出現した滝は、ナタでブッシュを切り刻みながら2つとも左から巻く。
だいぶ足下に残る残雪も深くなり、下流では水面を這う様に飛んでいたユスリカの姿も確認出来なくなった事に気づく。いつからか魚信も止んだ。
今回は何処まで遡行するか決めないで挑んだ釣行だったので、もうそろそろ戻ろうかと悩んでいる頃だった。突然足場の雪表がスッと下がった。イヤな予感を感じ、雪上から流れに降りその場を 見上げてブイックリ。ポッカリ口を開けたスノーブリッジの上に立っていたではないか。
行く手を望むと、増して残雪の多さが目に入る。少し先に進んで見たが雪の影響で遡行は辛そうだった。もはや単独で進めるのはここまでか...
続きは雪が完全に解け、雪代が落ち着く晩春以降に再度出向くと決め込み、今回の探索はこの時点で終了とした。

ヤマト確認出来ず

結局2つ目の滝を巻き、引き返すまでの間で釣れた魚は3尾也。いずれも20cm前後のアマゴだった。
体色の紫がかった雄志からは、この渓で長きに渡って生き続けて来たネイティブと思われるが、毎度の事ながら、ヤマト探索に訪れてヤマメが釣れてしまった事実に閉口するしかなかった。
どうもこう言うのは参る。
ただ、冒頭で申し上げた通り、この渓をご紹介下さった方から、”アマゴの渓”と聞いていたので、いつも落胆する程のショックは無かったのであるが、それでも万が一って期待を持っていたからなぁ...

斯くして、今シーズン初のヤマトイワナ探索は、スカを食らって終わったので有った。
♪♪ッチャンチャン♪