[ホーム/"ヤマトイワナ"探釣記]



2001年5月01日 : 早川水系 D川 D−1 D−2支流



今シーズン、この谷に入渓するのは今回が3度目。去年までは別の地区を重点的に動き回っていたので、以前から気にはなっていたが足を運ぶ時間が無かったのだ。
新緑も美しくなりドライフライでも確実に釣果を出せる様になった今、ようやく待ち望んでいた本渓の探索が始まろうとしている。

やっぱ、”SAGE”に尽きるわ!

単調な山歩きが続く。ひと尾根目の小高い稜線に到達すると、遠く崖下から沢の音が聞こえ、反対斜面から心地よいかすかな風が吹いている。そよかぜを身体一杯に浴びながら、ザックを降ろし火照った身体を冷ます。しばし小休止だ。
ボーッと、ザック脇に取り付けて来たパックロッドを眺める。
様子見のつもりで、先月初めてこの谷を訪れた時は、ADAMS・RODを持って来た。他の渓と違ってアプローチが長く、入渓者が少ない谷では、いつどんな大物が飛び出してくるか解らない。故に、自分で作ったロッドは、 どこまで耐えてくれるか全く解らず未知数だと言って良い。逆を言えば信頼性に欠けるのだ。日頃の釣行では、ロッドトラブルが発生したとしても、車に戻ればスペアーが有るし、いくらでも融通が利くのだが、こんな山奥に
来てしまっては、"トラブル=探索終了"を意味する。それに、山道を歩き回るに於いて、常に片手がロッドでふさがるってのも機動性に欠け、非常に効率が悪かった。
昨日の黒河内川釣行以来、山岳渓流に出掛ける時はパックロッドを使う事に決め、今回も"SAGE SP 389"5ピースを持参した。
今年は、今までと違って源流域を探索する釣行が多くなる為、ご自慢の自作バンブーロッドは当面出番がなくなりそう。

渓に降り立ち、組み立てたロッドを振ってみると、その軽さに驚く。何より信頼出来るのが良い。ああ、これなら60cmUPが掛かっても問題無いぞ。やる気マンマンである。

出るはヤマメばかりなり...

すごいゾ、いっぱいカワゲラが飛んでいるではないか。#14〜#16程の大きさだ。もしや、今日は日が良いのかも知れない。
が、しかしマッチングが”カワゲラ”だと解っているにも関わらず、#12のアダムスパラシュートを結びだした。「びょーきだな...」ふと思った。
水温9度。木漏れ日が差し込む淵にアダムスパラシュートをエイヤッと投げ入れる事2投目、「ピチッ」と反応が有った。「をを、今日はイケる、今日はイケるそー」。今の出かたは絶対 ちびっちゃいヤマメに違いないが、ドライに飛び出てきた事がなによりの収穫だった。
暫くそんな状態を繰り返すが、釣果には至らなかった。視認性に富む#12のフライでは、やはりまだ大きすぎる様だ。
仕方なく、#20のイエローテールアダムス(またかいっ)にサイズを落とし、絶対切られてなるもんかとチョイスしていた5Xのリーダーも8Xに結び換えた。
大岩の上を陣取り、前方のサラシ目掛けてフライを投入。より目になって岩から落っこちそうになるくらい、流れる小さなフライを探しては凝視、探しては凝視を繰り返した。
フライを見失う事も暫し、慌てて辺りの水面を探していると、白アワの中から1尾のヤマメ(勝手に決めてもいいのだ)がスーッと姿を現し上流に向き直るとライスしやがった。
もしやオレのフライを食ったのかも?
ダメもとでアワせて見ると魚が暴れ出した。ヤッパリ食ってたんだと踊りながらロッドを引くと、プチ〜ンとリーダーが切れやがった。自己嫌悪に陥った頭の中では、腹の黄色い体長50cmは有ったと思われる大物ヤマトが、 私の巻いたフライに狙いを研ぎ澄まして飛び出てきた情景がリフレインしてやがる。(あれから2日経った今、私は勇気を持って20cmのヤマメが無作為的に、たまたまフライを食ったと訂正する)
とにかく、バラした獲物はデカいのだ。

なんちゅー卑劣な

やっぱ8Xやめた、#20もやめた、ミッジ結んでんぢゃないのに8Xなんか使えるかーとばかり、もとの5Xと#12のアダムスパラシュートに戻した。こうなったらスレでもいいわ。もうヤマメもいいわ。目的のヤマトよ 出て来てくれ。
それでも、度々反応は有るものの釣果には結びつかなかった。

昼前、ようやく分支流へ到着する。ここで昼メシを食った後、本谷はどんな感じだろうかとザックを置き、身軽な状態でひと釣りして見る事にした。分支流より下は、度々程度の反応だったのに対し、これを境に上流のポイント からは面白い様に魚が飛び出してきた。
気合いを入れ直し、岩陰から丁寧に釣り上がって行くと、まず大きな淵で22cm程の
ヤマメをGET、続いて上の瀬開きで小さなヤマメをGET。どうやら魚影の濃いエリアに突入した様だ。
渓相は、ロングキャスト可能な穏やかで開けた河原に変わった。こちらの気配を感じ取られない様、遠くからプールにフライを投入すると、モワッと水面が変化し重たい手応えがロッドを伝わる。ガッチリとフッキングして いるみたいだ。寄せようとラインを引くと、向こうから私の立つ下流に向かって突っ走って来たので、テンションがゆるんでアセった。
ネットも置いて来てしまったので、岸に引きずり寄せる。一瞬魚体の色合いからヤマトかと思ったが、それは期待外れの”26cm弾丸ヤマメ”に他ならなかった。毎回このパターンだな...
肩を落として分支流に戻ると、もう1本の支流へ足を踏み入れる事にした。

この渓の種沢なのかも知れない

帰りの時間を考慮し、片方の支流には2時間ほどの探索時間を当てる事にした。
本谷に比べると、高度の上がりかたがきつく、小規模ながらも滝が連続する等、いかにも釣れそうな雰囲気だった。現に活性は高くライズも見受けられる。沢山の魚が人の手を借りずに、自然繁殖し続けている証拠が右の写真。
流れ脇の水深20cm余りの水たまりに、なにやらチョロチョロと泳ぐ稚魚を発見。近寄って覗き込んでも逃げる気配は無い。「をを、スレてないぜー、こいつら...」
メダカの正体が何かを突き止めるため、ランディングネットでひとかきして見ると、面白い様にすくい取れる。目を凝らすと小さいながらも生意気にクッキリとパーマークが写っていた。「なんだ、ヤマメかぁ...」
とは言え、冷静に考えて見ると、こういった渓は今や貴重な存在だ。これだけ沢山の天然魚が生きて行けるだけの絶え間なく流れ続ける水、そしてはぐくむ餌の量。私は、南アルプスに無数に存在する 沢に於いて、こんな自然形態が守られ続けている沢は現在までのところ4本しか知らない。
もしもこれがヤマトイワナで有ったなら、狂気に満ちて不整脈になったかも知れないが、魚種はヤマメでも放流魚とは比較にならない程価値の高い希少種の中の希少種だ。
なんとしてでも、末代まで残し続けなければならない...

ヤマト確認出来ず

この渓は、よほど奥まで詰めなければ、おおかたこんなもんだろうと思っていたので、いつも程の落胆は無かった。
ただし、上には絶対に居る。ヤマトは居る。必ず居る。

この渓の奥地に、ひっそりと行き続けているであろうヤマトイワナの雄志を夢見て、今シーズン中には必ず連泊で詰める事を誓い、本渓を後にした。