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2000年9月9日・10日 : 釜無川水系 B川



やっぱり二日酔い...

とうとうテン場で、足をつって動けなくなった。ヤマトつらないで足つってどうすんぢゃいと苦笑いしながら、ウェダーを脱ぐも「しまった、スニーカー忘れて来た...」
仕方なく、今晩はウェダーを履いたまま過ごす事にし、バンメシの支度に取りかかる。
一般的にキャンプでの夕食はメインイベントの1つでも有り、一番の楽しみとなるところだが1人では盛り上がりに欠けるどころか、心細いったらありゃしない。
ををそーだ、これから迫り来る暗黒の世界に恐怖感を覚える前に早くラリってしまわねば。
そう考え、ニコニコとザックから取り出した2本は、ウーロン茶のペットボトル500mlに詰め替えてきた”サントリーVO”と”ジャックダニエル”。
安酒VOって、ほんとマズいなぁとゴモクソ文句を垂れながら作り上げた夕食は、沢から戻って来る途中で見つけたフキ入り&持参タマネギ入り& 持参ピーマン入りのインスタントラーメン...シオとコショウをブッかけて味をごまかすも、なんだかバッタの飯みたいですんごいマズい。唯一持参した肉系であるウィンナーは、 昼に全部食っちゃったからしょーがないのである。
後のことを考えず、闇雲に突っ走る私の性格を象徴している行動だ。
ふっと、貧素な食事を目の前に「ヤマトイワナって食ったら旨いのかなぁ」と思った。いかんいかん。

ドップリと闇に包まれた7時過ぎ、遠くでたまに「キュワン、キュワン」と動物の鳴く声が聞こえ、焦って酒を飲む。だがそれも始めのうちだけで、段々アルコールがまわってくると、 そんな恐怖心も何処へやら、大声で歌なんか歌っちゃったりして...
そこには、アホな自分を客観的に見つめる冷静なもう1人の自分がいた。

翌10日、午前5時10分起床。
...やっぱりアタマが痛かった。
見ると遠くに投げ捨てられている空のボトルと、テント入り口に倒れている中身半分しか残ってないボトルが目に入る。しかも、まずい酒がカラで、旨い酒が半分残ってるって、 飲み方逆だろうが...
今日は、午前中行けるところまで遡行し、昼までにはテン場に戻る予定だ。午後は余裕を持ってゆっくりと帰路に着きたい。
あまり時間を無駄に使いたくないので、さっそうと顔を洗い朝食の準備に取りかかる。メニューは、昨日沢から戻って来る途中で見つけたフキ入り&持参タマネギ入り&持参ピーマン入りの インスタントラーメン...

あぁ、我が愛しのヤマトよ!

若干の栄養不足と、歩く度に太股へ感じる痛みが不安材料であるものの、こんなものは逆療法で直してやると意気込み、いざ10mの滝を巻きにかかった。両方とも滝の落差と同じくらいの 崖が行く手を阻むが、昨日ザックを背負ってクリアーしたあの大高巻きに比べればなんと楽なことか。チョチョイのチョイだ。
上流のゴルジュ帯突破に成功し、崖の切れ目からザイルを垂らして下降したのは、巻きを開始してから約40分後のこと。
ヤマトイワナに出会えるか否かの不安を胸に遡行を始めて数分後、「ウゲッ、何これ、空き缶落ちてんぢゃん...」
それまでこの渓に分け入ったのは自分だけかも知れないと半分優越感に浸っていただけに、自分のプライドが傷つけられた様で心が曇った。まさか近くに登山道でもあるんじゃなかろうかと、 すかさず辺りを見渡すが、それらしいものは目に入らなかった。ただ、だいぶ古くサビついた缶だったので、昨日や今日捨てられたものではないと察しがついた。
気を取り直し先を急ぐ。
1時間程経っただろうか、途中に3つ出現した滝を巻き、先を詰めていると、いつからか谷に日差しが差込み、周りが明るさを増した事に気づく。それまで両崖を囲っていたV字峡は、 いつの間にか森林へと景色を変え、流れが先細りになったあたりで魚影が走るのを確認した。
「をを!」確かに手前の開きから慌てて白泡の中に消える魚体をこの目で見たのだ。昨日ネットですくったヤマメは別として、ただの1尾もゲットしていない焦りから、期待と興奮で心が躍った。 瞬間的にヤツらだと確信(当てにならないけれど...)した私は、以遠の遡行を極力低姿勢で音を立てずに進む事にした。
前方に飛ばしたフライが、ゆっくりと水面を流れ帰って来る。
っとその時、目と鼻の先でいきなりスプラッシュライズが発生し、ロッドに重みが伝わる。完璧に向こうアワセだった。
7月1日にヤマトの爆釣体験をした時もそうだ。人を知らない源流部のヤマト達は、自分の真上に立っている人間が明らかに見えているハズなのに、恐れること無くフライ目がけて 食らいついてくるのだ。しかも黄色い魚体をひるがえして。

ネットに収まったソイツは、少し体色が薄いながらも紛れもない純血のヤマトイワナだ。
何枚も何枚も写真を撮りながら、遠く太古の昔からこの地でひっそりと生き延びてきた彼らの歴史に心を奪われ、とても言葉では表現出来ない程に重く感じられた。
その後、いずれもその先の小さなポイントから、4尾を釣ったところで引き返そうと決めた。もう十分だった。
           


下方から滝の音が聞こえて来た。一昼夜1人で山にこもっていた為か妙に懐かしく感じる。
昨日、汗水ヨダレを垂らして登った大高巻きの斜面は恨めしいが、下降は予め設置して置いたザイルを使えば、驚くほどに快適だった。行きではろくに眺める余裕すら無かった景色を、ゆっくりゆっくりと 噛みしめる様に味わった。

9月10日・午後4時18分、登山道へ無事生還。
振り返るに、今年1番の辛い探索になったが、それだけに特に印象深いものとなったのは確かだ。シーズン最後を飾るにふさわしい結果にも恵まれ、この時ほどやり遂げた充実感を味わった事も記憶に無い。
しかし、自然は優しく美しい反面、非常に驚異だ。1つ間違えれば、取り返しのつかない大事故に繋がる事例も往々にして有る以上、今後も気を引き締めて試みなければ。

はるか上方にまで続く今歩いて来た険しい谷間を見上げながら、もう絶対に行くもんかと心に誓った。

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